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ウッドマイルズフォーラム2019
「木材調達の側面から中大規模施設の木材利用を検証する」
(開催概要報告)


日時/2019年7月31日(水)13:30~16:45
場所/文京シビックセンター 26Fスカイホール
主催/一般社団法人ウッドマイルズフォーラム  後援/林野庁
 

公共建築物等木材利用促進法が施行されてもうすぐ10年。官庁や学校建築、オフィスや店舗など、様々な中大規模施設で木材利用が活発になる中、木材の調達手法についても様々な取組が行われている。
平成から令和へと新たな時代が始まった今、木材調達や利用方法について特徴的な中大規模施設の事例報告や意見交換会を行い、持続可能性やウッドマイルズ関連指標など環境的な側面も踏まえて、これからの時代に相応しい木材調達や木材利用について学んだ。
フォーラムには会員内外から67名が集まった。

【話題提供】
『公共建築物等木材利用促進法の成果と課題

長野麻子氏/林野庁木材利用課長
 

はじめに、林野庁の長野課長より、森林資源の現状を踏まえた林野庁の施策として、川上、川中、川下、各々の成長産業化に向けた改革の方向性について紹介があり、その中の一つ、今回のテーマでもある公共建築物の木材利用の現状として、木造率の推移(H29、低層公共建築物、27.2%)、都道府県別木造率(H29、低層公共建築物、1位秋田59.2%、2位鳥取58.3%、3位岩手48..9%)、市区町村方針の策定状況等が報告され、特に木造率が低く未策定市区町村が多い都市部での地域材利用の推進が訴えられた。
さらに、木材を活用した各地の公共建築物の事例紹介やクリーンウッド法登録累計件数、コスト等のビジネス面における効果・地球温暖化対策への貢献・SDGs等の社会的課題解決に向けた効果・CLT等の技術の進展、といった木材利用の意義が紹介され、最後にこれからの木材利用施策として、民間建築物へ促進を図るための懇談会(ウッド・チェンジ・ネットワーク)の取組も紹介された。

公共建築物等木材利用促進法の関係情報はこちら
ウッド・チェンジ・ネットワークの詳細はこちら

【取組事例報告】
『東京2020大会における持続可能な木材調達の取組』

日比野佑亮氏/公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 総務局 持続可能性部 持続可能性事業課長
 

来年開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会の組織委員会において、持続可能性に配慮した調達を担当されている日比野課長より、「持続可能性」について東京2020大会で掲げられた、「Be better, together/より良い未来へ、ともに進もう。」というコンセプトと、取組を進める上での、「気候変動」、「資源管理」、「大気・水・緑・生物多様性」、「人権・労働・公正な事業慣行等」、「参加・協働、情報発信」という5つのテーマについて紹介された。
また、「持続可能性に配慮した調達コード」の策定プロセスやこれまでの進捗とともに、木材の調達基準の概要について紹介された。木材の調達基準においては、合法性、計画性、生態系の保全、先住民族等の権利、労働安全、という5つの要件を設定するとともに、これらを満たす供給方法として、森林認証材(FSC、PEFC(SGEC含む))又は事業者による確認という2つの方法があり、国内の森林認証取得も進んでいる。
大会組織委員会が整備する2つの施設について、有明体操競技場では約2,300m3の木材が、選手村ビレッジプラザでは国内の63自治体から借り受けた約1,500m3の木材が使用される予定である。また、選手村ビレッジプラザで使用された木材は、大会後に各自治体に返却されレガシーとして活用される予定。
最後に、今回の大会の経験が、国内ではまだ新しい取組である持続可能性を意識した木材調達の普及につながればと、2020以降のレガシーに向けた思いが述べられた。
現在、持続可能性進捗状況報告書も公開されている。

調達コードの詳細はこちら
持続可能性進捗状況報告書はこちら

『域完結型の木材調達:南小国町役場新庁舎の木材調達について』
宮野桂輔氏/南小国町役場新築計画コーディネーター、株式会社高木冨士川計画事務所
 

第14回木の建築大賞(NPO木の建築フォラム主催)も受賞された、町産木材を使用した南小国町役場(設計:環境デザイン研究所)の木材調達について、地元熊本でコーディネーターをされた宮野氏より、南小国町の概要から新庁舎計画の策定、プロポーザルの実施、木材調達コーディネートまでの詳細が報告された。
発注仕様書で町産材の利用を強調し、川上側の町で加工できることやスギの神聖な立ち姿等を重視して設計案が選定され、構造材は町支給(分離発注)とし、森林組合、個人、学校林という3ルートから調達し、地域の人脈や組織を活かして伐採や乾燥・強度等の品質管理を行い、建設が実現している。
木材支給の経費は、支払い方法等の苦労はあったが、他の地域の類似庁舎と比較すると特に高額ではなかった。また、「職員が付きっきりになるため通常の業務に支障が出た、手間がかかる」等の意見や、必ずハコモノ行政という批判を受けるが、「やる気と人脈・アイデアがあればできる、流通材と特殊材の調達を分けると良いのでは」、等の関係者からの意見もあり、南小国町の事例は特殊解ではあるが、この経験をどう活かしていくか考えていきたい、と述べられた。

『屋久島町新庁舎の木材調達』
松下修氏/松下生活研究所合同会社代表、ウッドマイルズフォーラム理事
 

今年3月に竣工した屋久島町新庁舎について、6年前からアドバイザーとして関わっている松下氏より、基本構想からプロポーザル、建設、竣工までの取組が報告された。
町内の分収林の木材を1,023m3使用した新庁舎は、基本構想策定時に住民ワークショップも開催し、町内の国有林に民間事業者が植林した分収林の木材を1,023m3使用した新庁舎は、基本構想策定時に住民ワークショップも開催し、「島内経済の循環を図るため、地元の材と地元事業者により作ること」をコンセプトとした。、また50年生前後の地元材を活用できるよう、一般流通材の大きさの材を中心に作ることや、特殊技術を使わないことを計画に入れ設計案を選定。地元材は建築施工契約とは分離発注で2年前から準備を行い、地元の小さな製材所で製材し、加工は屋久島町木材加工センターを新設して供給。今後の公共建築に利用できるよう、木材調達仕様書の作成や木材生産拠点整備も行われている。
新庁舎建設は林業振興が主目的で、いかにして島内島外に材を販売するかが課題だったので、竣工後、全国の工務店に屋久島の地杉の特性を付加価値とした「ヤクイタ」を販売してもらう展開をしている。

『たけのこ保育園 木材調達と建築事例紹介』
山崎健治氏/有限会社こころ木造建築研究所代表取締役
 

静岡で木造住宅や施設の設計を手掛けられている山崎氏より、地元材を使用した保育園の木材調達と建築事例について報告された。
700㎡弱の平屋の幼稚園で、木材は大井川流域材をCoC大井川グループ(大井川小径木架構事業協同組合)より調達した。同流域はかつて川を利用して丸太を流す管流しが行われ、木都島田と呼ばれ、木柱(電柱)や遠し柱の生産が盛んだった地域で、現在の山は樹齢50~60年、4m材で直径26~28㎝が多くとれ、通し柱などの長材が得意な地域。今回の保育園の木材は大井川流域から加工場も含めて現場まで100㎞圏内で調達されている(一部は別途県産材、国産材)。
その他、建築計画や法規制等の留意点、外観、アプローチ、玄関や遊戯室のアラワシの構造材、内装材の工夫やデザインなどについても紹介され、今後もすぐ近くにある地元の無垢材を活かして、子供たちに木の良さを伝えていきたい、という思いが伝えられた。

『中大規模建築物木材利用と木材調達のウッドマイルズ評価』
藤原敬氏/一般財団法人林業経済研究所フェロー研究員、ウッドマイルズフォーラム理事長
 

ウッドマイルズフォーラム理事長、藤原氏より、ウッドマイルズフォーラムの活動の歴史や、輸送負荷とトレーサビリティという地域材の2つの環境貢献などについて触れられ、過去に行った日本3大木造ドームのウッドマイルズ評価が紹介された。その結果を援用し、今回報告された南小国町役場、屋久島新庁舎、たけのこ保育園のウッドマイルズ関連評価、東京2020大会関連施設(新国立競技場、有明体育競技場など)と2012ロンドンオリンピック施設の比較などについて報告された。
オリンピック関連施設については、現在建設中で詳細情報は未確認のため大雑把な評価であるが、東京2020で建設される国産材や地域材を活用した施設の輸送過程の消費エネルギー(排出CO2換算)と建築用材に固定されたCO2の比率をみると、ロンドン2012と建築物のそれと比べると、環境負荷が少ないことがよく分かり、地域材利用による循環型社会の構築が、東京2020大会のレガシーの一つになればと報告された。
最後に、企業の最近の地域木材利用の動向や、山と町をつなぐウッドマイルズフォーラムの今後の役割等についても触れられた。

(日本3大木造ドームの評価)
 
(今回報告された施設の評価)
 
(オリンピック関連施設の評価)


【質疑応答・意見交換会】
(ゲストコメンテーター)
熊崎実氏/一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会顧問
速水亨氏/速水林業代表
(コーディネーター)
三澤文子氏/有限会社Ms建築設計事務所主宰、ウッドマイルズフォーラム理事
 

フォーラムの最後に、今回の報告内容や公共施設の木材調達などについて、ゲストコメンテーターや会場を交えて意見交換会を開催した。先日、書籍「森林未来会議」を出版した、ゲストコメンテーターの速水氏、熊崎氏、より、意見交換が始まった。

 
 
(速水)
木材利用の方法として、集成材やCLTなど多様化するのは良いと思うが、山側から見ると、無垢材と集成材は加工手間や歩留まりの違いによって山側に帰ってくるお金が変わってくる。集成材は曲がり材等も受け入れるため歩留まりは変わらないと言う人もいるが、現実には良材を要求される。理論的には成立しても現実では歩留まりが変わり、山側の収入が減ることが問題だと思っている。また今日の報告は無垢材利用が多く、山にも配慮した良い取組だと思う。オリンピック施設については木材供給者が批判を受けているものもあるが、今は大規模施設になると必ずデューデリジェンスが求められる。基準や認証はクリアした上で最後は俺が責任を取る、というのが本来のデューデリジェンスの考え方。基準や認証をクリアしたから大丈夫と考えるのは片手落ち。建築業界でも何か言われた時に責任を持てるか、というところまで考えておく必要がある。
(会場)
選手村ビレッジプラザへの自治体からの木材の無償提供について、業界としてどのように評価しているか?
(速水)
新国立競技場の方は値が付いていたので出したが、こちらは断った。量や金額はわずかで、イベントでもあるので寄付してもいいのだが、若干プライドが許さなかった。
(熊崎)
今、世界の林業や木材加工は激変期にあることを伝えておきたい。様々な技術開発や早生樹の生産などが盛んに行われていて、アメリカのツリー・ファーマーズ協会では、強度が弱い早生樹の短伐期プランテーションをCLTに安く利用することを検討している。世界で起きているこれらのことを念頭に入れて日本の木材利用を考えないと、日本は遅れてしまう。
また、森林未来会議でも書いた今の問題は、山持ちの手取りがどんどん減っていること。補助金行政も間違っていた。経営力や技術革新の力を弱めてしまった。これからは政策を改めて、林道の整備も進め、間伐補助金が無くてもやっていけるようなことをしていくべき。
(会場)
埼玉県の地域材推進に関わっているが、地域材利用には地域性が重要。埼玉では木造住宅生産が多いが、それらを中大規模に応用する際、木材生産と建築技術をうまくリンクさせることが重要で行政とも連携して技術力向上の講習会等に取り組んでいる。木材のカスケード利用を考える時、地域によって体制や技術が異なるので、考えて選択していくことも重要。屋久島の事例は、島という色々な制約の中でやられていた。このような色々な取組事例をまとめていくと、共通の進め方が見えてくると思う。
(三澤)
今は住宅に限らず大規模施設でも木材利用が広がり追い風のように見えるが、結果的に山にお金が帰らないことは根本的に問題があるように思う。今日の取組事例からも様々な努力が必要なことが伝わってきた。
(宮野)
木を売ることをあきらめている時代になってきているので、少し色を付けてでも買わないと木が集まらなかったということも現実。また、役場が伐採した分は植林をしたが、その他は未確認。
(松下)
屋久島の木材産業は十数年前全く動いていなかったが、今は活気を取り戻している。新庁舎建設も林業振興の一環であり、ヤクイタの全国販売の流れ(30数社と提携)が出来て良かった。諸塚村、五木村など関わっているが、山にお金が戻らない、でも高く売れない、なので高く売る市場を作るしかない、ということで、地域特性による付加価値探しや仕組みづくりを検討している。
   
 

(会場)
全国の地域工務店、設計者、大学の先生方をメンバーとして、2年前に木造施設協議会を発足させた。地域の木材、技術、仕事をいかに残していくかが目的。現在は、保育園の園長さん等の事業主がどう思っているか、どのように木とマッチングするかを把握することが重要と考え、木を無理強いするのではなく、保育園の職員が環境から受けるストレス等、現場の問題も丁寧に分析して活動している。
(会場)
林野行政のやる気を感じた。選手村ビレッジプラザの用材の借用について木材調達コードが実際どのように機能したのか知りたい。他の報告事例もとても素晴らしかった。非住宅にも木材の専門家が必要。各々のウッドマイルズ評価もとても興味深い。

さいごに
(ウッドマイルズフォーラム会長:藤本)
今日の報告事例は、言葉ではなく実際に木の建物が出来て一般の人達に訴えられるので素晴らしい。木材を使用する建築家の立場として現状の問題をどう考えるかだが、木造建築づくりの50年間の歴史を振り返ると、1980年代、川上では国産材ハウス展示事業や森林フォーラム実行委員会の設立、川下では地域住宅計画(HOPE計画)や家づくり85コンペが実施され、地域の住宅の生産供給体制を地域に提案させ、大手だけでなく地域工務店の近代化を応援したと共に、林野と建築行政がリンクした時でもあった。今日のフォーラムも中大規模施設について、川上と川下で議論した訳だが、川上ではウッド・チェンジ・ネットワークが、川下では無垢製材を使う中大規模施設が主なテーマになっている。ウッド・チェンジ・ネットワークのメンバーは大企業が主だが、今日の報告のように地域で頑張っている人達がたくさんいるので、林業行政には地域からの視点を入れて欲しい。さらには、近現代の次に来る新しい時代に向けて、哲学者内山氏が言う、希薄になっている人と人との信頼関係を再構築すべき時代に向けて、検査、認定、ではなく、人を信頼できる社会にしていくべきだと思う。
今日のフォーラムでも議論になった、山にちゃんとお金が戻り、山で生き生きと働けて、川下側もそれをリスペクトして仕事ができるという関係を今後どう構築できるか、ウッドマイルズフォーラムとしても一つの問題提起ができるよう議論していきたい。各地域の様々な特殊解から、普遍性をもった解が導き出せるよう、皆様からも色々な知恵を出して頂きたい。




過去のフォーラム一覧

2019.7.31 ウッドマイルズフォーラム2019(東京)
「木材調達の側面から中大規模施設の木材利用を検証する」
→開催概要報告(PDF)

2018.7.26 ウッドマイルズフォーラム2018(東京)
「国内外の違法伐採対策とクリーンウッド法~環境に優しい木材のリスクヘッジの現場から-」
→開催概要報告(PDF)

2017.7.18 ウッドマイルズフォーラム2017(東京)
「これからの地域は何を目指すべきか~森林・木材・建築を中心に」
→開催概要報告(PDF)

2016.7.13 ウッドマイルズフォーラム2016(東京)
「地方創生と木材利用を考える」
→開催概要報告(PDF)

2015.7.23 ウッドマイルズフォーラム2015(東京)
「ウッドマイルズワークショップ~会員内外からの活動報告」
→開催概要報告(PDF)

2014.7.29 ウッドマイルズフォーラム2014(東京)
一般社団法人ウッドマイルズフォーラム設立記念シンポジウム
「100年後を見据えた地域の木質資源の利活用」
→開催概要報告(PDF)

2013.6.25 ウッドマイルズフォーラム2013(東京)
ウッドマイルズ研究会発足10周年記念フォーラム
「ウッドマイルズのこれからの利活用を問う」
→開催概要報告(PDF)

2012.7.21 ウッドマイルズフォーラム2012(東京)
「日本の森林の今を学ぶ」
→開催概要報告(PDF)

2011.7.16 ウッドマイルズフォーラム2011(東京)
「木造仮設建築物の支援活動から、地域の森林・木材・建築を考える」
→開催概要報告(PDF)

2010.6.19 ウッドマイルズフォーラム2010(東京)
「地球環境時代の今、どのような「木材調達基準」をつくるべきか」
→開催概要報告(PDF)

2009.6.27 ウッドマイルズフォーラム2009(東京)
「森林・木材・家づくり、持続可能な循環を目指して!」
→開催概要報告(PDF)

2009.6.27 ウッドマイルズフォーラム2009(美幌町)
「木材の環境指標の連携と地材地消を目指して」
→開催概要報告(PDF)

2008.7.4 ウッドマイルズフォーラム2008(東京)
「木材の環境指標の連携・統合を目指して」
→開催概要報告(PDF)

2007.6.30 ウッドマイルズフォーラム2007(茨城)
「リレー講演/森林と消費者の距離を縮めよう!」
→開催概要報告(PDF)

2006.6.3 ウッドマイルズフォーラム2006(愛知)
「ウッドマイルズ入門セミナー」
→開催概要報告(PDF)

2005.6.11 ウッドマイルズフォーラム2005(京都)
「ウッドマイルズ入門セミナー」
→開催概要報告(PDF)

2004.4.25 ウッドマイルズフォーラム2004(岐阜)
「ウッドマイルズセミナー」
→開催概要報告(PDF)
 

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